欠乏症

 極端な食事療法で一番心配なのは、欠乏症。直ぐに体調不良のような結果が現れてくるのなら、簡単に気がつけるのだけど、中には数年後に突然・・・なんて事もあり得るので厄介なのです。
 典型的な例は、ビタミンB12の欠乏症。
 ビタミンB12は赤血球の正常な合成に必要なメチオニンシンターゼの補酵素として働いているビタミンです。なので、欠乏すると、悪性貧血という正常赤血球が十分につくれない型の貧血を発症します。でも、この欠乏症はビタミンB12を殆ど含まない食事をしていても直ぐには発症しないのです、それはなぜなのでしょうか。
 ビタミンB12の欠乏症がなかなか現れない理由は、体内に十分量が貯蔵されていることと、その取り崩しが極めて少ないことが関係しております。教科書レベルの記述では一般に成人で体内に 5000 μg程貯蔵されているとされますが、平均的なビタミンB12必要量は1日当たりだいたい 1 μg程と推測されております。欠乏症が現れるには貯蔵量が1割程度になる頃と考えられますので、10年以上経ってから欠乏症が現れる事が考えられます。
 ビタミンB12欠乏は胃切除を行った方や胃液分泌の悪い人によく見られます。これは、ビタミンB12の吸収には胃の壁細胞から分泌される内因子と食物由来のビタミンB12が結合しているたんぱく質から分離される為に、胃酸やタンパク質分解酵素の働きが必要だからです。胃の全摘出を行った人ではビタミンB12が吸収や再吸収できない事で、ビタミンB12欠乏食を食べている人に比べて、より速やかに症状が現れるとされる所以です。早ければ数年後に発症することが知られております。
 ビタミンB12は動物性食品に豊富に含まれる一方、植物性の食品には殆ど含まれていないという特徴を持ちます。例外としては海藻類に多く含まれる事が知られておりますが、その多くは不活性型であるとされ、ビタミンB12改善に寄与するかどうか今のところ定かではありません。
 ですので、極端に肉を嫌う食事をしている人では、初めのうちは健康に悪影響がなんら見られない、そればかりではなく、充実感から主観的健康度は高まるかも知れませんが、10年単位で見たときにはもしかしたら、ビタミンB12欠乏が心配されるかも知れません。又、大人と違い、子供ではその貯蔵が十分でないことも予想されますので、大人と同じような食生活を強いる事はたいへん危険なこととどらねこは考えます。